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映画オタクの青春!『I Like Movies』で甦る2003年の記憶

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『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』ポスター画像


www.youtube.com

レンタルDVD全盛期の2003年カナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディ。

カナダの田舎町で暮らす高校生ローレンスは映画が生きがいで、ニューヨーク大学トッド・ソロンズ監督から映画を学ぶことを夢見ている。社交性に乏しい彼は唯一の友人マットと毎日つるみながらも、そんな日常が大学で一変することを願っていた。高額な学費を貯めるために地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始めたローレンスは、かつて女優を目指していた店長アラナらさまざまな人たちと出会い、奇妙な友情を育んでいく。そんなある日、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人を決定的に傷つけてしまう。

監督・脚本は、本作が長編デビューとなるチャンドラー・レバック。監督の自伝的ストーリーながら、主人公の性別をあえて男性に変更して撮りあげた。主演はラッパーとしても活動する若手俳優アイザイア・レティネン。

2003年という舞台設定。

レンタルビデオ店全盛のさなか、だからこそ漂う当時の記憶と空気感。

自身の青春時代も同じくレンタル全盛期、音楽にしろ映画にしろ、とにかく足を運び、目で見て、様々な出会いと興味に気付かされたものです。

そんな本作、店内の再現性がやたらと高いなと思っていたのですが、どうやら実際に使われていたものを見つけ出し美術として使用したとのこと。

そのアメリカにおけるレンタル屋の雰囲気が最高なんですよ。あくまでもその辺は過去感マックスで。

そうしたノスタルジーに始まる本作ですが、内容はそんなにほのぼのとしたものでもないんです。

実際のストーリー自体はさておき、主人公のローレンスが全然良いやつじゃない、というところも話をこじらせる。

映画オタクでそれ以外は興味なし。これほど好きなことがあるという幸せを感じさせる反面、それ以外のことにも少しは興味を持ってほしいというのも反面。

なので性格自体が捻くれており、母親や友人のマットとの関係性なんて特にイライラさせられるものばかり。

ただ、若い頃の自分を鑑みると、ここまでではないにしろ、そういう側面があったことも事実なわけで、身につまされるような点もしばしある。

好きであることと偏見は表裏一体で、のめり込むことと孤立することも同じく。

痛々しく見えるのは多分誰しも心当たりがあるからで、多かれ少なかれ、こうした時間を過ごした経験があるという、ある意味若気の至り的な部分に満ちているからなのかなと。

視聴者として客観的に観るとわかるのに、自身のこととなるとこうもわからないのかという奇怪な面白さを感じつつ、ローレンスの七転八倒に飲み込まれていく。

とはいえ中盤までは単なるわがままで通っていたローレンスが決定的な事件を起こしてしまい、それは言い逃れできないでしょという渦中にあってもなお言い逃れをしようとするどうしようもなさ。

なぜ自分中心に世界が回っていると思うのか。映像的にもそうしたことが表現されており、見ていて痛々しくも伝わってくる。

そしてそのシークエンス。

レンタル屋の店長、アラナの言うセリフがいちいち刺さるわけですが、改めてローレンスをサイコパス的だと思うところもあり、「なぜこのような状況でもこうしたことが言えてしまうのか」と思ってしまう。

体感として得ていた以上にそう思わされるわけですが、思ったのも束の間、その後のローレンスの対応や返答にはさらに驚かされる。

同時にローレンスという人間に悪気が無く、ただ思うようにやってきただけということもわかるシークエンスで、本当に悪いやつじゃないということも理解できるんですよ。

ここからこのキーワードを中心にローレンスを見ていくことになるわけですが、終盤のシーンでは一気にその印象が覆される。

学校で完成したショートムービーを鑑賞するシーンがそれなのですが、表情一つ見ただけで唯々映画が好きなんだなと感じられる。

冒頭で問うた、”好きなことがあるということ”、これが無いのも人生として味気ない。

さらに言えば共感できる相手がいて、相手のことを知ろうとする意識を持てばこそ人生の充足感は満たされるのではないか。

ラストショットの会話やローレンスの立ち振舞からそうした伏線を全回収して、これが必要だったんだと思わせる説得感が素晴らしいですし、それを体現するローレンス演じるアイザイア・レティネンの演技力の素晴らしさがあればこそ。

からの「I Like Movies」というタイトルの出方も良きでした。

そういえばエンディングもそうですけどサントラの選曲バランスも良かったですね。

open.spotify.com

ほのぼのとしたサウンドオルタナティブでノイジーなロック感。

サウンドだけでも2003年という時代の空気感を孕み、映画の映像とマッチしている。ギターにしろ鍵盤にしろ、生かす単音と重ねる音、ぼやかす味付けなどのチョイスが効いている。

スタイリングも抜群で、ローレンスの変に小洒落た服装がお洒落ですし、映画が好きだからこそのスタイリングを感じさせるような、いわゆるなお洒落じゃないところがにくい。I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』映画好き“はみ出し者”高校生の青春コメディ - ファッションプレス

ゴーストワールド』を参考にしているというところもあって、ファッション、サウンド、テーマ性というのはルックをみても明らかですよね。

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鑑賞後に抱く、”自分がなぜ映画を好きになったのか”ということも改めて考えさせられますよね。

映画を通し、体験不可能なことを体感する。小説などもそうですが、それをビジュアルとして観ることが出来、音声として聞くことが出来るのが大きな違いであって、その中で、自分の枠内認識を拡張できる。

辛い時、悲しい時、楽しい時、怒っている時、憧れる時。

あらゆる場面における感情を引っ張り出し、消化してくれる。”気持ちの中和剤”として映画が存在していたな、なんてことも思わされたり。

いずれにせよ映画は本当に良いものだなと年始早々思わされる一本でした。

それでは。


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