『ジョゼと虎と魚たち(2003)』
色褪せないあの頃。
当時観た時、とにかくスタイリングが格好良く、妻夫木聡が一番輝いていたように見えた印象があった本作。
寒々しい2025年の幕開けと共になぜだか無性に観たくなるのは映画自体が纏う空気感の成すところだろうか。
とりわけスタイリングでの印象が大きく、クレジットを観ていた時に出てきた”伊賀大介”という名前を忘れられなかったのも思い出の一つ。
その後色々な雑誌で伊賀さんを追うようになり、同時にファッションへの興味も高まって今に至る。
伊賀さんは本作が初めての映画でのスタイリングだったこともあとで知り、今にして思えば初作であのスタイリングはかなり攻めているなと。
ブランド偏重でない、映画の空気感、役柄との相性を第一に考えたスタイリングで、本作でのそれは抜群に格好良く、フィットしている。まさにビジュアルを言語化して見せたような気すらする記号じみた人物像。
M65フィッシュテールパーカーのフル装備(シーンによってライナーを付けたり外したり)にスタジャン、ネルシャツ、パーカー、ダメージデニム。ラフな大学生の良さとお洒落さの絶妙なコントラストが何気ないけど目を惹く。
それを着こなす妻夫木聡もさすがなわけですが、当時のこのヘアスタイルも抜群に格好良かった。
当時の妻夫木の格好良さは異常だと思っていて、ヘアスタイル込みで、存在感が半端じゃない。
絶対にそこら辺にいないでしょと思わせてくれる説得感もあり、でも、キメキメでないナチュラルなカッコ良さも併せ持つ。
とにかくそこら辺だけでも見どころしかないわけですよ。
そして楽曲がくるりですよ。
ストーリーの透明感と画作りのそれ。その透明感に負けないほど澄んだストリングの光る「ハイウェイ」。忘れられないですし、今聞いてもやはり良い。
思い出効果無しで純度100%の透明感。
サントラ全編をくるりが担当しているというのも納得で、今にして思えば凄いキャストだよなと。
ではストーリーはということですが、これまた純然無垢とした本質がそこにはあると思わせてくれる。
過酷さやネガティブな感情を破棄したようなストーリーテリング、出てくる全ての人間が「結局は仕方が無いんだよ」と言ってくれているような、諦めとも違う、鼓舞を纏っている。だからこそ悲観的に観ること無く、あくまでも前向きな姿勢で観られる物語になっているのではないか。
中でもジョゼ演じる池脇千鶴の名演が光るわけで、過酷な境遇を生きてるはずなのに全然そう見せない。そうした部分を垣間見せながらも慎ましやかに生き抜く純朴さ、意思の強さを感じさせるような姿勢にやられる。
本作を観ていると、「あぁ、そのままでいいんだ」素直にそう思えるから不思議なものだ。
無理に意地を張ったり、誇張したりせずとも日常は過ぎるし、幸せもやってくる。そんな当たり前な忘れかけたものを取り戻させてくれる。
映像的な部分からもそうした当たり前の日常のかけがえなさをフィーチャーしている点も抜群にエモーショナル。
まず冒頭のフィルムカメラでのスライドが良い例ですよね。
写真自体の精度や露出は二の次、結局のところ残るのは思い出とそれに纏わる記録の集積。
良いものを良しとするんじゃなくて、何でも良く見えるのが本当の良さ。
特に海辺で撮ってもらったこの写真は良かったですよね。
当たり前にあるはずの幸福感をそのままにパッキングしたような一枚。
どこで、なにを、いつ、そういうことでなく”誰と”なのかということにフォーカスを当てた時に見えてくる景色。
物語だけを辿ると過酷であったり、現実の否応なさ、運命論めいた諦めを抱きそうな中にあって、それでもそこに流れる抜群に澄んだ空気が映像越しに伝わる多幸感。
満ち満ちた純粋さが誰しもある柔らかい感情を刺激してくる稀有な作品だなと改めて。
今ある感情、環境をもう少ししっかりと噛み締めるには良い時期なのかもしれません。
では。
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