『くしゃみ 浦沢直樹短編集 (ビッグコミックススペシャル)』
装丁がどうなのかということも本には重要な要素ですよね。
本作のマットな質感とエンボス加工が施された表紙に、女の子のくしゃみ寸前の画。
浦沢直樹というとどうしても子供の存在は欠かせないわけで、その女の子を表紙に、イエローとパープルのコントラストというカラーリングも含めて洒落ている。
内容自体も”くしゃみ”にあるようなふいに出てしまうものといったような偶然性、思いつきによる、遊び心溢れる短編集。
個人的に好きだったのが「DAMIYAN」「月に向かって投げろ!」の二作品だったんですが、どちらも浦沢らしい小悪党、ミステリー、B級感に満ちている。
まず「DAMIYAN」。
ひとコマ目からB級映画を彷彿とさせる唐突なファミレスシーンでのはじまり。
壮大な話に転がるのかと思いきや、これまたしょうもない展開こそが魅力的にうつる。
設定と見せ方、話の展開の間の抜け方がクスッと笑えてほっこりするようなシュールさを孕み、そうしたところにこそ短編の醍醐味を感じる。
そして「月に向かって投げろ!」。
こちらは逆に壮大さが円環構造となり、広げた伏線を回収できるのかというほど物語が大きくなっていく。なんですが、それが上手い具合に着地するんですよ。
舞台を目深に取った犯罪物の面白さ、謎解き、どこに着地するのかというワクワク感を
そそられるような作品。
思いつきから着想しつつも、作者の意図やバックボーが図らずも出てきてしまう短編集の醍醐味に溢れた、浦沢直樹らしい作品群。
骨太な作品が多い作者だけに、短編でのこうした息の抜けるお話も楽しいものです。
では。
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